2010年9月14日火曜日

万年筆布教論6 「呼び水のペン」

ここで、少し耳慣れないフレーズとして「呼び水のペン」について書いていきます。これは、私の布教論特有の用語です。
--以下本文--
先まででひとまず万年筆の購入についての大まかな論を展開したが、それにいたるまでの興味をひく段階はどうすればよいか。少々記したが一本を何らかの方法で渡して興味を持ってもらうのが良いということである。これを本文では「呼び水のペン」と題し、これについて本章で論を展開する。
呼び水のペンとしてふさわしいのは、それを渡す状況にもよるだろうが、原則は最上でないながら万年筆の良さを示すペンである。M1000や149を始めとした、多数に受け入れられているペンを渡せばそれは当然良いに決まっているのだが、次への興味を引き立てない。その一本で満足してしまうからである。一本で満足してもらうというのであればこれでもいいのだが、自ら興味を持ってもらって購入してもらってこそ布教という立場からは嬉しくない。何でもいいから万年筆人口を増やしたい、というならば金に糸目を付けず高いペンを配ればよいのだが、これで使ってもらえるかどうかは別問題である。そもそも、人に何かしらの状況で渡す万年筆でも、良いものは高すぎる場合が多い。高すぎる贈り物は好意を通り越して嫌味ですらある。そもそも高価と思われがちな万年筆のことだから、なおさら良く考えて選ぶ必要がある。
まず、見た目に「らしくない」万年筆が良いということ。そして、書き味はそこそこによく、問題が起こりにくいペンが良い。出来れば無難に、細めのニブが良いだろう。トライアングル万年筆のデコペンや、OHTO社の1000円台の万年筆は確かに安いが、インク漏れが起こりやすかったりニブが特殊であったりと布教に向いているとは言い難い。一方で、高価な、742等は嫌味であるしそもそもその段階で満足してしまう。呼び水のペンはどんなに良くても国産1万円級までで、国産1万円級もよほどでない限りは避けたほうが無難である。pen and message店主吉宗氏が過去に記した文「筆記具担当者のひとりごと」によれば、国産1万円級はほとんど完成されているがまだわずかに至らぬ点があり、その至らぬ店をカバーしたのが2万円級であるとのことである。この僅かの「至らぬ点」こそが次のペンへのキーであり、呼び水のペンに要求される点である。
呼び水のペンはまず書き味がよく、そこそこメンテナンスなしで使えなければならない。よくある袋ペンケースに入れてシェイクされたぐらいでインクが漏れるようでは論外である。万年筆好きであればおよそしないことであろうが、他のペンとごった返す中で乱雑に扱われても問題なく使えて、なおかつ書き味の良いペンが呼び水のペンとしてふさわしい。
となれば、概ね国産鉄ペンかあるいはペリカーノジュニア、サファリ、IMなどの5000円を切る万年筆が上がってくる。少しマニアックなところでは、シュナイダーのベースなどは呼び水として見事と言える性能を持っている。頑丈さに関しては驚くほどであり、書き味も悪くない。呼び水のペンは鉄ペンであれば金ペンの方が良いという一般論を突きつけられるので、書き味は良くていい。むしろ、鉄ペンとしては書き味が良い部類でなければならない。上記のペンを適宜な調整で渡すことが出来れば言うこと無しである。自己調整で少々良くするだけでもずいぶんと違うものであるので、自己調整修行中という人はある程度うまくできた練習用の万年筆を呼び水のペンとして使うとよいだろう。
ここで、呼び水のペンに布教者の好みを反映させるよりは購入の時の候補に布教者の好みを反映させたほうが布教者と似た好みになりやすいことを付記しておく。これは、呼び水のペンはあくまで「かませ犬」だからである。呼び水のペンは名前の通り興味を起こさせるものである。無論、万年筆の良さを知るという観点から、ずっと使っていけるペンであるべきだが、と言って、その一品で完全に満足しきってしまうようではいけない。それ故、ここに好みを反映させても当人への影響は大きくないのである。
以上の観点から言って、一般論で多少欠点を指摘できる程度の「良い」万年筆、それも安価なものが呼び水のペンとしてはふさわしい。鉄ペンであるというのは大きなファクターで、鉄<金という不等式はマニアに限らず成り立つ(というよりむしろ、マニア以外の方がマニアに比べて圧倒的によく成り立つ)ため、ここで、「金ならばもっと」と興味をそそることができるのである。
--以上本文--
実際の文書では呼び水のペンとしてふさわしいペンのリストを掲載する予定ですが、ここでは省きました。他にも、事例紹介等はこれまでの文から省いています。主論を大切にしたいためです。

2 件のコメント:

二右衛門半 さんのコメント...

確かに呼び水は必要ですね。
今も買いたい欲しい!人がいるのですが、どのように調理するのか迷っているところです。
大いに参考にさせていただいております!

達哉ん さんのコメント...

>ニ右衛門半 さん
コメントありがとうございます。

このブログでの草稿は論部のみで、検証や事例、リスト等は載せていませんが、お役に立っているようで嬉しい限りです。検証・事例・リスト等を載せた論文、テスト等が終わって落ち着き次第きちんと執筆しようと思っております。