2011年8月20日土曜日

書評:「コンビニたそがれ堂〜奇跡の招待状〜」

短編だった前作から、今回は中編という程度の長さになった
コンビニたそがれ堂〜奇跡の招待状〜です。

前作はミルクチョコレートのような作品でした。なんとなくほっとする場面がある、優しさを感じるような。今回はそれに、少しの苦味が入り、ビターチョコレートになりました。

別れは絶対に避けられないものです。生命との出会いは、必ず生命との別れを持ちます。そこまでがどれほど長いかはわかりませんが、しかし、別れの時は必ず来るのです。

この作品、表には出ていませんが、テーマとして、別れの温かさを描いているのではないかと思います。
別れは辛くて寂しくて、凍えるようなものだけれども、そこには本来生命の温かさがあって、たとえ目の前で見えなくとも、泣いているうちにそれに気づくものなのだと思います。別れの時に流す涙は、その凍える状況への涙でもあるけれども、温かさを示す涙でもあるのだ、と思います。

私は今年22歳で、まだ親しい人との別れは、一度しか経験していません。でも、ついこの前に、数年ぶりに話した幼なじみの言葉は、ちょうどこの本を読んだ後だったこともあってか、心に刺さりました。
「数年後、同窓会したら、その時はもうこの世におらんやつもおるかもなぁ」

その人が自分にとって何をなし、何を教え、何を示してくれたかは、まだ会えるうちはわからないのだと思います。別れの時が来て、そのあとようやくわかる。その時、涙を流せる人間でありたい。その時、温かさを感じられる人間でありたい。4つの話の、とりわけ私が熱中したのは「人魚姫」「魔法の振り子」ですが…、それを読んで感じたことです。

この本のタイトルは、奇跡の招待状です。
その招待状の効果には、ハリーポッターの7巻に出てくる石とかぶるところがあります。
ありていに白状すれば、私はこの招待状は手に入れたくありません。

奇跡の招待状は、もしかすると鬼籍の招待状かも知れません。読んでみればわかりますが、そう感じさせるような展開があります。ハートウォーミングな結末になっていていいなと思いますが、もしも現実に奇跡の招待状があったら、少なくとも私にとっては、鬼籍の招待状に化けてしまうのではないかと思い、これをあたたまる結末に出来る登場人物は芯が強いと思いました。

人を信じられる人には、奇跡の招待状であると思いますし、作者もそんな人なのだろうと思います。
私はそれとは反対。裏切られたり辛い思いをして、人を心から信じられない。知り合いが言っていた言葉が染みます。「自分でやろうとしてしまうし、自分で片をつけてしまうし、周りから頼られるしだから、他に任せることができないんじゃないかな。」

読み終わって、つくづくいい作品だと思いました。
そして同時に思いました、私が自分をまかせられるような人、いつ見つかるんだろう、と。

ほろ苦さが残る、ビターチョコレート。最初に言ったことは、実際に読んでみればなるほどと頷いてもらえるのではないでしょうか。

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