2010年9月10日金曜日

万年筆布教論5 「インクの選び方」

初心者とマニアではインクの選び方で着目すべき観点が違います。その点について記していきます。
--以下本文--
万年筆が決定した後はインク選びである。出来ればコンバーターとインク壺で買ってもらうのが長期の使用には(コストパフォーマンスを考えても)良い。毎日使うことが最良のメンテナンスであるというのは言い古されており、また事実であるが、たとえこれを布教者がしつこくいったところで、毎日使ってくれる保証は一切ない。むしろ、マニアであればわかるだろうが、毎日使うことは(数本であっても)意外と難しいのである。
となれば、初心者にそれを強要することはできない。であれば、インクの質を考えて選ばねばならない。無論、ペンと同じ会社のものを選ぶのが最も安全であるが、初心者には出来れば色で選んでほしいというのが私の意見である。特に、使うペンであれば黒か青かを勧めたいところだが、人によってよく使う色は変わる。私が布教した人にも、赤が普段使いという人がいる。このように、色は人によって違うので、まずは相手の欲しい色を聞くことからインク選びが始まる。
色の一手でインクを選んでしまうのはひとつの手で、それに値段も考慮すればよいのであるが、万年筆布教の観点からは、できれば継続使用の可能なものを選ぶべきである。マニアはインクを色々変えたりして楽しむ人もいようし、インク自体を色々と購入するのもまた楽しみ、ご当地インクもいいだろう。だが、一本目の人がインクを次々に変えて楽しもうと思うだろうか?これから長いパートナーとしての一本を選ぶという心持ちだろうから、インクを次々に変えるというのは考えにくい。そこに布教者の介入余地がある。インクの安定供給性である。
相手の状況(例えば引越しをしやすい職業にある、など)を考えて、安定供給可能なインクを選ばなければ、相手はインクを変えることになってしまう。そして、インクを変えるなどマニアにとってはキチンと洗って変えれば、と造作も無いことであるが、初心者にはそこがハードルとなる。それ故、インクを購入するときの安定性は重要である。
詰まりにくいインクをすすめるのも重要であるが、それに加えての安定供給性、となると選択肢は限られてくる。相手が自ら安定して購入できる状況にあるインクの中で、出来れば詰まりにくいものを選ぶべきだろう。万年筆と同じ会社で希望の色があれば万々歳であるが、そうでなければ後述のアフターサポートの充実により対応せねばなるまい。
とりあえず、「期間限定」と名がつくものは論外である。モンブランのシーズングリーティングなどその典型である。インクの良し悪しを論ずる以前の問題で、使い続けることができない。マニアは良いが、初心者にそれは相応しくない。「ご当地インク」については、例えば居住地が近かったり、ご当地インクを売っている店の周辺に定期的に訪れるなどの理由があれば勧めてもよいが、そうでないならば避けるべきである。安全圏として、パイロット、セーラー、プラチナ、ペリカン、モンブランあたりが良いだろう。入手の難しいインクはできるだけ避け、小さな文具店でも売ってそうなインクが良い。
このあたりのインクの選び方やペンの選び方によって相手が選んだ物により、この後のアフターサポート(後述)のウェイトが変わってくる。出来ればアフターサポートなく使えたほうが良い。というのは、アフターサポートが充実していても、アフターサポートを受ける側はそれを面倒と感じる場合が多いからだ。パソコンが多少壊れたからと言って逐一アフターサポートを受けているような人はあまり見られない。これは、受け手側が面倒であるというのもひとつの理由であると思う。アフターサポートのウェイトを減らすことはそれだけ布教者側も楽だし、受け手も安心して万年筆を使える。それだけに、ここでインクの入手のしやすさは確保しておいたほうが良いだろう。インクが無くなったときにいちいち布教者側に連絡して売っている店を教えてもらって…では面倒この上なく、結果使わなくなってしまう可能性がある。
私は実用主義であるので、自分のインクも安定供給できるものを中心にしている。相当な行動範囲、コネクションで安定供給可能にしているので、一般的に安定供給できるとは言いがたいが、それでも電話をかけるなりメールを送るなりして後は振りこんでおけば自分の欲しいインクが送られてくるような状況である。これによって、私はインクに悩むことなく万年筆を使用している。そして、色々なインクを楽しむ前段階の初心者には、この状況よりももう少しコアでない状況、店による安定供給を可能にしておくほうが、ハードルが低くなるのである。

0 件のコメント: