2011年11月2日水曜日

書評:エレガントな解答

3週連続で矢野先生の本ですが
ちくま学芸文庫Math&Scienceの一冊「エレガントな解答」です。

矢野先生があちこちに書かれた文を集めた書籍です。色々言う前にとりあえず。矢野先生、パピルスお好きですね。

大きく言って5章にわかれる本です。以下、各々についてですが…。

・エレガントな解答:中学生に読んでもらいたいと感じた章です。ごく易しい例を用いてエレガントな解答とはどのような解答かを書いています。この本は章が進むごとに難易度が上がりますので、この章がスラスラ読めないなら後の章(特に後ろの2章)は厳しいように思いますが、と言ってスラスラ読めるなら「まぁたしかに」で終わってしまうという困った章です。逆に、数学に慣れていない人はここを楽しまれるのが最善と思います。

・趣味の数学:先よりも少々レベルが上がり、これは中学生は中学生でも卒業間際の中学生ぐらいが丁度いいぐらいです。前回、前々回と紹介した「数学者たち」にも載っていたパピルスがまたもやここで登場します。趣味の数学ということで、パズルチックに楽しめる数学を紹介されています。面白いですが旧聞に属することも少なからずあり、私には少々物足りない章でした。

・パスカルの定理:パスカルの定理(こちら)の意味とその証明について論じられています。章ごとに難易度が上がっており、この章は高校1年生程度の数学を理解していなければやや難解ではないだろうかと思います。意欲ある高校生に進めたい章です。一つの定理の複数の証明を眺めるのは大変楽しく、学ぶことも多いように感じますので、高校生の後輩にとりわけお勧めしてみたいところですね。

・アインシュタインと相対性理論:ここで物理が入ってきます。一般の方がよく言われるような定性的な相対性理論について、少し数式を用いて解剖してみようという色合いですが、前章にも増して難しく、意欲ある高校2年生以降、下手すると理系の大学1年生ぐらいを対象としても良いぐらいの内容です。記述等は簡単で明解であり楽しいと思いますが、背景知識を多少なりとも必要とする章であると思います。「ニュートンの運動の第2法則ma=Fにおいても慣性の法則は言い表されているから、わざわざ別立てしなくてもいいのでは?」と言う質問に答えられるぐらいの知識があれば、スムースに読めると思います。

・現代の数学:と言っても元々この本が53年前の本ですので、現代と言えるかどうかは判断に苦しむところです。集合の解説に始まり、トポロジーを経由し、曲率などの話に進み、変換群などの話も書かれている、「50年前の数学風景ツアー」という色を呈しています。単純な難易度はかなり高く、大学の教養レベルで呼んでも面白いと言えるのではないかと思います。面白いですが、時代背景や学問的背景も必要なように感じました。

と、難易度がどんどん上がっていくようになっています。対象読者がよくわからない本ですが、おそらく数学の教養を磨くのには適した本ではないかと思います。良い本ですが、記事のレベルの差がありすぎるので、万人には勧めがたい本です。

蛇足ながら、私の好きな一松信先生が本書の解説をなさっています。この解説、通りいっぺんの解説とは余程違って、それだけでまた楽しめる構成です。高校生ぐらいの知識があって、数学好きな方に是非。

0 件のコメント: