2012年2月28日火曜日

内海隆一郎を読む 第3回 「欅通りの人びと」(3)

「欅通りの人びと」の10章から14章です。今月中に読み終えてしまうつもりです。

第10章:新たな登場人物、野島夫妻が出てきます。1章まるごとその話で、この章だけで内海さんの短編1つ分位です。畑を手放さない野島夫妻の思いと、それを邪推する買い手の、心の違いが如実に現れています。
…短編で、多分ここだけ読んだとしても、長編の一部ということは全くわからないのではないでしょうか。例えば何かの試験で、この章だけ抜き出してみたら、長編の一部だなんてわかりっこないに違い有りません。長編の中の、一服の短編という感じの章です。

第11章:暑い一日に、4つの場面が語られます。サッカーチームの監督は、暑い中で練習試合の申し込みの手紙を書いている。自転車屋では、扇風機を探していて、その中で、ちょっと遠慮するような感謝の言葉が。喫茶店では、主婦たちの嫌な話に、店主がうんざりして、追い出してしまう。結婚式を間近に、誕生日を迎えてそれを喜びつつ、今後への不安がなくなっていく様子の書かれた夫婦と、それに忍び寄る狼。
…ひと通りというか、「今後解決していくであろう問題を抱えた」登場人物を全てだし、後半の始まりという雰囲気を醸し出しています。教育についてあまりに厳しい親…。色々な考えがあるのでしょうが、過去について色々と詮索して陰口を叩く、その行為自体が、子供に悪影響を与えるのではないか、と私は思ってしまいます。最近にまで通じる、教育に関する親の問題を書いているようにも思います。

第12章:ルミとキヨシは、無事に結婚を迎えます。その一方で、サッカーチームは、親たちの裏出の取り決めがあったのでしょう、全然子供が集まらなくなりました。また場面はかわり、香川さんは義父母の気持ちを慮って、ルミの知らぬ間に二人を招待します。その招待からか、義母が来てくれた結婚パーティーは良い雰囲気です。そして、反対に、石山さんは気持ちがはれないままです。
…二つの、正反対の情景が対比的に書かれている章です。人を信じられる気持ちの、素晴らしい場面と、人を信じたくなくなるような、しんどい場面とが交互に書かれます。この2つの場面では、共通して、過去に囚われてしまうような所が見受けられます。義父は、過去の娘のことを思い返し、監督は過去によって敬遠されて。過去というのは、当人から見ても、他人から見ても、多くの影響を与えるものです。だからこそ、自他共に決着をつけなければ、過去の束縛から逃れることはできないのではないかと思わせてくれる、そんな章です。

第13章:ルミはついに出産します。その出産の時の不安、そして生まれた後の喜び。それを軸に、それぞれの不安、それぞれの喜びが展開されます。夏休み明けのサッカーチームでは、一人トレーニングをしていた健治くんが活躍しています。しかし、その裏で、小田さんは忸怩たる思いをしています。喜びと不安とがある日常です。
…あらすじには全く書きませんでしたが、親というものについて考えさせられる章です。親が止めてサッカーの練習をやめさせる、親の都合で子供を引き取りに来ない、生まれる子供と親の関係、と、章題を「親」としても良いのではないかと思うほどです。私が親になるのはまだ先でしょうが、人間らしさを持った、あたたかい気持ちを持った親にならねばと思います。

第14章:尾形夫妻の新築の家が空き地に立つとのことで、夫妻はそれを見に来ています。しかし、亡くなった第一子のことが思い出されて、奥さんは平常心ではいられないようです。「別れて」、どうすることもできない尾形さんは立ち尽くすばかりです。
…12章で提示された「過去」、13章で提示された「親」を、新たな登場人物の物語で描き出します。砂袋のように寝ていて、父親として全く何もしてやれなかったという過去は、奥さんの心に、どうしても言えない傷を残していたのでした。親としてのことを出来なかった、それほど重い過去は、どうしても遺恨を残してしまい、それ故、束縛はとても逃れられるものではなくなってしまうのかも知れません。物悲しい気のするヘビーな話に、12章、13章からかかれてきたことの新たな側面が出ているように思います。

2 件のコメント:

volcanologue さんのコメント...

貴君に推薦するのだが,内海を読む回は,貴君の読書感想を書くのではなくむしろ,読書推薦文を書くようにしてはどうだろう.即ち貴君の意見を雑ぜながら,内海のこの言葉があるから惹かれるなどと書いたらより面白くなるのではないか?

達哉ん/Tatuyan さんのコメント...

>Volcanologue さん
コメントありがとうございます。
推薦文…書ければいいんですが、「雰囲気が好き」というような感じで、言葉にまとめられそうにありません。感想文の形の方が、推薦できそうに思います。ただ、もう少し推薦という幹事を出せるよう、善処してみたいと思います。