2014年9月9日火曜日

心は夜に届かない〜中島みゆきの歌詞の解釈(21)

中島みゆきは、自分の歌詞の解釈を聞き手に任せます。それは、私にとって嬉しいことであり、私もその精神に則って、自分なりの解釈をしています。

解釈は人によっても異なりますが、時によって異なり、心によって異なり、状況によって異なるものであると思います。同じ曲を複数回出すこともあるかも知れませんが、それは状況や時が変えたということと考えてください。

今回は、工藤静香への提供曲で、縁会2012〜2013でも歌われ、この度の怒涛の4連続リリースにも入った「NIGHT WING」です。歌詞はこちら
工藤静香への提供曲は難解な歌詞が多い印象なのですが、この曲もやはりかなり難しいと思います。

「何処で眠りにつこう 静まらない夜の中 石畳の隙間で ノイズの羽根にくるまる
  君はもう寝たのかな 静まらない夜の中 せめて夢でなりとも 安らぎを手渡したい」
誰かから誰かへの、人ならぬ何かが、その役目を果たせずに悲嘆にくれているような情景が思い浮かびます。

「走っても走っても止まってるように見えるのは 何のゆえだろう
  泣いても泣いても笑ってるように見えるのは 何のゆえだろう」
抽象的な人ならぬものかと思いきや、いきなり現実に戻ってきます。走っていようと止まっているように見え、泣いていても笑っているように見えるのは、全く現実そのものです。そんな現実の辛さは何のゆえかわからないから、先に書いた「せめて夢でなりとも安らぎを手渡したい」につながる。そんな誰かから誰かへの心が
「NIGHT WING 心型の翼は風に煽られて飛び立つ
  NIGHT WING 心逸れた翼は ぽつり 掌で眠る」
ように、夜の翼となって飛び立ち…しかし届くことはなく心を逸れ、掌で眠るのです。ぽつり、孤独の中。

「窓はいくつあるんだろう 世界全部合わせたら
  そのひとつひとつずつ 愛は巣ごもるだろうか」
一体いくつあるかわからぬ窓、世界中全部の窓を合わせたら、全ての愛は行き渡り、それぞれの巣にこもるのだろうか…。心型の翼はおそらく愛を含む翼なのでしょう。そして、その翼には、おそらく2つの巣があり、1つは送り手の巣、もう1つは受け手の巣で、それらにたどり着くことが出来るのかということなのでしょう。すぐ後はきっと答えであろう
「帰っても帰っても帰り着かぬ気がするのは 何のゆえだろう
  触れても触れても触れていない気がするのは 何のゆえだろう」
が続きます。送り手の巣に帰っても帰り着かぬばかり、受け手に触れても触れていないばかり、結局心型の翼は行き場を持たないのです。

そして、それ程になったとしても
「痛んでも痛んでも人を呼び起こせないのは 何のゆえだろう
  黙っても黙っても君だけは聞こえてくれると 願うせいかな」
と、届かないのです。黙っても君だけは聞こえてくれる…そう願うせいで届かないのかもと思いつつ、しかし、多くの人がそうであるように、声を発して届けようとはしないのです。結局
「NIGHT WING 心型の翼は風に煽られて飛び立つ
  NIGHT WING 心逸れた翼は ぽつり 掌で眠る」
ように、人への心は夜寝ている間に飛びたち、相手へ向かっていくけれども、相手の心に届くことはなく、やはり掌で眠るのです。

届けられない心、いくら持っていたとしても、結局相手には届いていない。
夜の曲ながら、しかし荒れ狂うような激しさを持ち、あまり安らぎとは無関係な曲調もあって、
具体的に届けられぬ心は、結局孤独なままだということを歌っているように思えます。

心は勝手には届かないから、届けられるようにしなければ…。
自分が心がけ、しかし同時に自分が最も享受できないその部分を歌ったように思います。
丁度自分が死にたいと思った時に、何人もの人が私の死を恐れていると言いながら、心を届けてくれることがないのと、同じように思える歌でした。

※ この解釈は、あくまで私の一解釈であり、正しい・誤りであるというのを書くものではありません。一つの見方として受け取っていただければ幸いです。

※ 扱って欲しい曲がありましたら、コメントでお書きください。

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