2011年8月10日水曜日

書評「コンビニたそがれ堂」

予告通り、今回からの8月の書評はコンビニたそがれ堂シリーズとします。今回はその第1弾です。

これは、もともと児童文学だったというだけあり、児童文学の文体で書かれているように思います。

私のツボにハマる作品です。ほとんど日常を書いておきながら、日常とは少し違う部分が散見されるような。

この作品の段階では、まだコンビニたそがれ堂の具体的な話は見られません。ただ、不思議なコンビニがあって…という記述です。2巻や3巻になると、より具体的な記述がありますが、それがないという意味で、この作品は「たそがれ堂とは一体どんなお店なのか?」という想像の余地を残してくれます。正体不明、という楽しみですね。

この話の温かみの一つに、コンビニたそがれ堂自体が問題を解決するわけではない、というところがあると思います。たそがれ堂はあくまでコンビニであり、それが問題解決への(極めて大きな)きっかけとはなるものの、コンビニの店長が出てきて問題を解決してしまうわけではありません。

この一連の温かい物語集は、現代の冷たい街中とは正反対のものであるように感じます。人を人として扱うことすら少なくなった世の中の、きつい労働を強いられるコンビニとは。

第1作が第2・3作と違うところに、児童書の出であるという点があります。それ故でしょうか、社会の問題点のような記述がここには見られません。

こんなたそがれ堂のような店がある街を、社会を、我々はつくっていかねばならない。それを感じさせるのが第2・3作とすれば、それが出来ることを前提に、子供たちに、そのあたたかみを教えられる作品であると思いました。そして、忘れた大人に、温かみを思い出させることの出来る作品であるとも。

それでもこれは物語の話だと割りきってしまって、結局自分の周囲は冷たい世の中だとしか思えない、疲れきった自分がここにいます。そんな人が、少しだけ人を信じてみようと思うことができた作品でもありました(結局、周囲を信じても、裏切られるだけでしたが)。

コンビニたそがれ堂は、物語の中にしか過ぎないと今は言えます。それが言えない、物語の中に見えるけど本当は事実なんだ、と言えるような時代が訪れることを願って、書評といたします。

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